不動産コラムNo.008
令和3年4月1日より「大気汚染防止法の一部を改正する法律」が施行されました。
建設業界に大きな影響をもたらす法改正ですが、一体どんな影響が懸念されているのでしょうか。
今回の記事では大気汚染防止法の改正により生じた変更点と一番影響が大きいであろうリフォーム業界に焦点をあてて、詳しく解説していきたいと思います。
この記事の目次
大気汚染防止法の改正で何が変わったのか
そもそも大気汚染防止法とは、端的にいうと、工場の煙や建設現場の粉塵、自動車の排気ガス等の有害な揮発性物質の飛散を規制する為の法律です。
今回はその大気汚染防止法(以下、大防法と呼びます。)の中の「粉じんに関する規制」が改正される事になりました。改正によって何が起こったかというと、「アスベスト含有材を解体する作業が含まれる工事」に対しての規制が強化されました。
具体的にどう厳しくなったのでしょうか。詳しく解説していきたいと思います。
工事の際に規制がかかるアスベスト含有建材が増加した
アスベスト含有建材は「特定建築材料」と呼ばれ、その飛散性と作業性を鑑みてレベル1~3までに区分けされています。更に、その特定建築材料を解体する作業の事を「特定粉じん排出等作業」と呼び、特定粉じん排出等作業が含まれる解体工事の事を「特定工事」と呼んでいます。
改正前まで大きく規制がかかっていたのはレベル1、レベル2の建材に対してでした。
レベル1、レベル2の建材は一般住宅ではなく、築年の古い、大規模な商業施設等に用いられる事が多かった建材です。それらを解体する際に工事業者に大きな規制がかけられていました。
しかし、今回の大防法改正によりレベル3の建材まで「特定建築材料」の定義に含まれることになりました。
レベル3建材とは屋根材として使用されているスレートやクロス、石膏ボード、床材の塩ビタイル、システムキッチンの耐火板等、一般住宅でも広く使われている物になります。
つまり、今までは大規模な商業施設等の解体を行う様な場合でしか適用がなかった法律が、一般住宅における工事も適用範囲に入れたという事です。
更に解体という用語を使っていますが、厳密にいうと特定建築材料を破砕、切断する様な工事は解体工事と定義されます。つまり、一般住宅でシステムキッチンの入れ替えの為、既存のキッチンを壊して撤去する等といった工事が発生した場合、その工事は「特定粉じん排出等作業」を含む「特定工事」という事になります。
特定工事を行う場合には次に解説する事前調査が必要になってきます。
リフォーム工事が特定工事にあたるか否かを事前調査しなければならなくなった
大防法改正が小規模なリフォーム工事に与える作業工程をフローチャート形式でまとめました。
まず、大きく変わってくる部分が事前調査の義務化です。大防法第十八条の記載を要約すると「解体等工事」と定義される工事を行う際は、それが特定工事(アスベストを含む建材を解体等する工事)にあたるか否かを事前に調査し発注者に書面を以て、説明しなければならないという旨の記述があります。
別途、厚労省が定めた「石綿障害予防規則」(以下、石綿則と呼びます。)の内容と併せて、類推すると、明らかにアスベストを含んでいない素材、または作業内容が明らかに素材を飛散させるような物でない場合以外は全て事前調査が必要と解釈する事が出来ます。
つまり、レベル3建材に該当する可能性のある物を解体する場合はクロスやCFシート等でも、必ず事前調査を行い、発注者に対して調査結果を説明しなければなりません。
これは、アスベストを含んでいないことが築年数等から明らかであったとしても「含有していないことが明らかである」という説明をする必要があります。
大気汚染防止法と石綿障害予防規則の違いについて
上記で登場した石綿則ですが、これは厚労省が制定した規則で、主に石綿解体作業に従事する作業員や石綿解体作業に対する規制について定められています。
石綿則も2021年8月より改正案が施行される予定となっていますが、大防法の改正と石綿則の改正内容は連動しており、双方の定めで石綿解体工事に対しての規制が強化されています。
ざっくりと違いを表でまとめますので確認してみてください。
大気汚染防止法 | 石綿障害予防規則 | |
---|---|---|
対象とする主体 | 主に工事の元請 | 主に下請け業者 並びに実作業者 |
規制内容 | 施主に対する説明義務 事前調査結果の保管 掲示物の掲示義務 等 | 作業主任者の設置 作業基準の厳守 作業記録の作成 等 |
リフォーム業者にどんな影響があるのか
改正前の大防法は、レベル1~2の建材が規制のメインであり、大規模な解体を行う業者が影響を受ける法律でした。
しかし、今回の改正により一般住宅でも使用されているレベル3建材が対象となったことで、小規模な住宅リフォームを行う業者ですら法律の影響を受ける事になってしまいました。
ハウスメーカーや建築した工務店であれば物件の工事履歴や使用材等を把握しているので、まだスムーズに対応する事が可能でしょう。問題は小規模なリフォーム業者です。大防法、石綿則を解釈していくと、クロスの貼替、CFシート貼替程度の工事でも事前調査の必要があります。
過去のリフォーム履歴や竣工時の使用材がわかれば問題はないのですが、スポット的に依頼されるリフォーム工事の現場で、わざわざ対象となる建材のアスベスト含有を確認するのは時間と手間がかかります。
・施主が図面を持っていた。
・前回工事した際の履歴が残っていた
・2006年9月1日以降に着工した建築物である。
といった様に、石綿含有が無い事が明らかな場合は問題ないですが、それらの証憑が全くない場合は、含有無と言い切ることが出来ません。
最悪、成分の分析調査を行わなければならない可能性すらあります。
ただ流石にクロスを貼替える程度の工事で、クロスの成分分析まで行うのは現実的ではありません。
そういった場合は含有有と仮定し、特定工事として作業を行う事も可能ですが、フローチャートの記述通り、小規模な工事でも含有がある場合は手間のかかる追加作業が発生します。
小規模なリフォーム業者などは如何に数を捌くかが売上の要になりますので、この様な事務作業を大量に抱えるのは死活問題になります。
リフォーム業者が今後、必要になる資格とは
大防法と石綿則の改正により遵守しなければならなくなった作業の中には、資格を持っていなければ行えないものがあります。どういった資格の取得が必要になってくるのでしょうか?
結論から言うと大きな要となる資格は
「石綿作業主任者技能講習修了者」と「建築物石綿含有建材調査者」の2つです。
双方の特徴を簡単にまとめてみたので、確認してみてください。
石綿作業主任者技能講習修了者 | 建築物石綿含有建材調査者 (一般建築物,一戸建て等) | 建築物石綿含有建材調査者 (特定建築物) | |
資格取得方法 | 講習実施機関において講習を受講後修了試験に合格 | 講習実施機関において 講習を受講後修了試験に合格 | 講習実施機関において講習を受講後修了試験に合格 |
受講資格 | 18歳以上で試験合格者 | 石綿作業主任者技能講習修了者 一定の実務経験 一定の建築系の学歴等 | 石綿作業主任者技能講習修了者+一定の実務経験 一定の実務経験 一定の建築系の学歴等 |
資格取得時間・費用 | 11時間の講習 費用¥15,000~ | 11時間or7時間 費用¥55,000~ | 11時間+実地研修 費用¥99,000~ |
資格の効果 | 石綿作業主任者になれる。 | 一般建築物の場合は レベル1~3建材の事前調査が可能 ⼀⼾建て等の場合は一戸建て住宅にかかるレベル1~3建材の事前調査が可能 | レベル1~3建材の 事前調査が可能 |
次にそれぞれの特徴を詳しく解説します。
石綿作業主任者技能講習修了者
特定工事を行う際は
・石綿作業主任者技能講習修了者
・特定化学物質等作業主任者技能講習修了者
上記の資格を有する者から「石綿作業主任者」を選んで現場監督としなければなりません。
今まで、内装リフォーム等をメインに請け負ってきた会社では、仮にレベル3建材が含まれていたとしても、レベル3建材に対しては大きな規制がなかったので、そのまま施工することができました。
しかし、改正以後は作業内容にレベル3建材の解体が含まれていた場合、有資格者を連れてくるか、外注しなければ作業を行う事が出来ません。
建築物石綿含有建材調査者
実際に作業する場合だけではなく、工事を請け負う段階でも規制があります。
リフォーム業者は施主に施工する内容が特定工事にあたるか否かを事前調査し説明しなければなりません。
しかし、この事前調査も2023年10月より有資格者によって行う事となりましたので
・特定建築物石綿含有建材調査者
・⼀般建築物石綿含有建材調査者
・⼀⼾建て等石綿含有建材調査者(2020年7月1日新設)
上記いずれかの資格保有者でなければ事前調査結果の報告を行う事が出来ず、施主への説明責任を果たせないため、工事を請け負う事が出来ません。
総括
大防法の改正によって、今までは大きな解体作業を行う業者がメインで規制を受けていた内容が、小さな一般住宅のリフォームを行う業者にも波及する事となりました。
現在は、移行期間という事で各項目に猶予を持たせていますが、今後リフォーム工事業者は少なくとも「石綿作業主任者技能講習修了者」と「建築物石綿含有建材調査者」の有資格者を確保しておく必要があります。
今回の大防法改正の法的解釈は、複雑かつ多岐に渡り、理解するのが中々難しいですが、実務に影響のある方は確実に頭に入れておかなければならない知識と言えるでしょう。
賃貸管理会社に勤務する管理マンといいます。
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