不動産コラムNo.006
仲介業者というのは基本的に仲介手数料を主な収入源とするビジネススキームで成り立っています。
しかし、皆さんは駅前等にある賃貸仲介店舗の看板に「仲介手数料ゼロ」「仲介手数料無料」と書かれているのを見かけたことがありませんか?
仲介手数料が収入源の仲介業者が、何故、仲介手数料を無料にできるのでしょう。
今回は、そのからくりを解説したいと思います。
この記事の目次
賃貸不動産の仲介手数料の仕組み
不動産仲介業者は法律上で宅地建物取引業者(以下、宅建業者)と呼ばれており、営業を行うにあたり、宅地建物取引業法(以下、宅建業法と呼びます)の制約を受ける事となります。
宅建業法では宅建業者が受け取ることができる仲介手数料の額についても定めがあります。
宅建業法において賃貸物件(住宅)を仲介する場合、仲介手数料の上限は原則として
貸主から 賃料の0.5ヵ月+消費税、借主から賃料の0.5ヵ月+消費税
合計で賃料の1ヵ月分+消費税 と定められています。
ここで、おやっ?と思った方も多いのではないのでしょうか。
街中の賃貸仲介業者で仲介手数料を1ヵ月分と謳っている所もありますよね。
それは、宅建業法違反にあたるのではないでしょうか?
仲介手数料 1ヶ月分は適切なのか?
結論から言うと、仲介手数料を賃料の1ヵ月分受領する事は違法でありません。
何故なら、宅建業法では「原則として」貸主から賃料の0.5ヵ月+消費税、借主から賃料の0.5ヵ月+消費税が仲介手数料の上限と定められていますが、依頼者の承諾があれば、どちらか一方から賃料の1ヵ月分+消費税の仲介手数料を受領しても良いと記述されているからです。
宅建業法通り、貸主側からも仲介手数料を受領し、借主に半額請求という物件もありますが、地域性による部分が大きく数もそこまで多くありませんので、現実的には借主から100%徴収する事がほとんどです。
仲介手数料の負担額をめぐる判例
この仲介手数料の負担額をめぐって、過去大手仲介業者の「東急リバブル」が裁判を起こされた事があります。
この裁判は実際に受領した仲介手数料の額ではなく、依頼者に事前に承諾を得ていたのか?という部分が重要な争点となったのですが、結果として、「東急リバブル」は仲介の依頼をした時点で仲介手数料の額について承諾を得られていなかったとして敗訴となりました。
これ以後、大手の仲介業者は宅建業法違反を指摘されない様、申込書類などに仲介手数料を1ヵ月分とする承諾内容を盛り込んだフォーマットを用意したり、事前に説明を行ってから申込を受ける事を徹底し、合法的に1ヵ月分の仲介手数料を受領しているという訳です。
賃貸不動産の仲介手数料の相場は?
大手仲介業者の多くは仲介手数料を賃料1ヵ月+消費税としています。
ただし、競合他社との差別化のために仲介手数料を下げる業者も増えて来ていますので、入居したい物件が既に決まっているのであれば、仲介手数料の安い業者で申し込みを行うと良いでしょう。
仲介手数料を値切る客は嫌われる?
結論として、仲介手数料は物品等と違い成果報酬になりますので、その報酬を値切る人が好かれるという事はまずないでしょう。
上述した通り、仲介業者の主な収入源は仲介手数料になります。
しかし、手数料の上限は決まっているので、いくらお客さんの為に、必死で良い物件を見つけようが、貸主に条件交渉をして条件をよくしてもらおうが、既定の仲介手数料しか受領出来ない訳です。
仮に仲介の営業マンがお客さんの為に一生懸命頑張って気に入る物件を探し出したとします。
そこで、事前に仲介手数料を1ヵ月分と説明し承諾しているにも関わらず、いざ明細を提示した際に、少し聞きかじった程度の知識で違法じゃないんですか?等と反論されると、流石に営業マンも人間として不満を感じますよね。
ただ、そうはいっても、物件を決めるまでに営業時間を費やしてしまっている訳ですから、利益が0になるよりは・・と考えて、引き受けざるを得ない事がほとんどです。
逆に、事前説明をしたにも関わらず、値下げを打診された場合は、仲介後にトラブルになる可能性有りとみなして仲介自体を断る業者もある様です。
なぜ仲介手数料が無料になるのか
本題の仲介手数料無料のからくりですが、2つのパターンがあります。
宅建業者が貸主の場合
サブリース契約という単語を聞いたことはありませんか?
サブリース契約とは建物の所有者から建物を丸ごと借り上げた上で、それを又貸しする契約の事を言います。
つまり、所有者本人はサブリースを行う宅建業者に建物を貸し、宅建業者が貸主となって、エンドユーザーに部屋を貸し出している訳です。
住みたいと思った物件で仲介業者が貸主となっている物件の場合は貸主との直接契約になりますので仲介手数料は発生しません。
ちなみにポータルサイト等で物件を調べる際、取引様態が「貸主」となっている物件は宅建業者が貸主となっている物件です。
直接契約は受け付けておらず仲介業者を通すことが必須の場合もありますが、直接契約OKの業者であれば仲介手数料は発生しません。
業務報酬がついている物件
業務報酬とはADやバックと様々な呼ばれ方をするのですが
貸主が物件を成約してくれた仲介業者に支払う謝礼金の事です。
宅建業法上では若干グレーなお金ではあるのですが、不動産業界で業務報酬のやり取りは当たり前の文化となっています。
ただ、近年コンプライアンスの意識が業界内でも高まってきており、以前までは、当たり前の様に受け取っていた業務報酬も、宅建業法に抵触しない様に色々と建前を設けた書類を交付した上で、貸主から受け取る事が多くなっています。
業務報酬は賃料の〇ヵ月分、または賃料の○○%といった形で付与されており、例えば賃料が6万円で業務報酬が1ヵ月分ついている物件を成約した場合、仲介業者は合計で賃料の2ヵ月分+消費税の金銭を受け取ることができます。
つまり、業務報酬が付与されている物件の場合、仲介手数料を無料にしても、仲介業者は利益が出るのです。
仲介手数料無料といわれる物件のからくりがこれです。
業務報酬がついている物件は積極的に仲介手数料を無料にして成約を狙う業者もいれば、通常通り仲介手数料を受領し、業務報酬も得ることで2倍の利益を狙う業者もいます。
仲介手数料無料物件のデメリット
仲介手数料が無料になる、からくりについて説明しましたが、最後にそのデメリットを解説したいと思います。
業務報酬がついている物件に限られる
そもそも何故、貸主は業務報酬をつけるのでしょうか?
結論をいうと、その物件が決まりにくいからです。
賃料が高い、築年が古い、立地が悪い、内装工事にかけるお金がない。等、理由は様々ですが、基本的には決まりにくい物件を仲介の営業力で解決するために業務報酬を付与します。
ただ、業務報酬も地域の風習によって考え方が違い、東京等では本当に決まらない物件に対して付与するのが一般的ですが、西日本では基本的に1ヵ月分は付与するというのが一般的です。
つまり、東京で仲介手数料を無料にしますと言われた場合、その物件は中々決まりづらい物件である可能性が高いです。
もちろん、その分初期費用は安くなりますし、立地が悪いだけで建物自体は悪くないといった場合もありますので、メリットがないわけではありません。
総括
仲介業者は仲介手数料が主な収益源なので基本的には減額をしたくないが、それに代替する業務報酬がある場合は、値引きに応じてくれる可能性が高い。
業務報酬という利益があるからこそ、仲介手数料を無料にしてくれるが、業務報酬がついている物件は、そもそも決まりにくいから業務報酬をつけているという点も理解しておきましょう。
賃貸管理会社に勤務する管理マンといいます。
賃貸管理業に関する様々な情報を提供していきたいと思います。